チオシリケートの発光特性制御

 我々はシリコン基板上に直接、比較的低温で作製できる発光材料として、 ユーロピウムチオシリケートに注目して研究を行っています。 これまでにユーロピウムチオシリケートをシリコン基板上に作製することに成功したため、 次の段階として発光波長の制御や発光効率の改善が課題となっています。 しかしながら、ユーロピウムチオシリケートを含めたチオシリケート系発光材料に関する 報告例は少なく、特に青から黄色間での連続的な発光波長制御はこれまでに報告がなされていません。 そのため、チオシリケート系発光材料の発光特性制御や発光メカニズムの解明を行うことは、 我々の目指すところであるシリコン基板上光源に限らず、照明やディスプレイなど他の分野への 応用にもつながります。
 今回は粉末試料においてユーロピウムチオシリケート(Eu2SiS4)とバリウムチオシリケート (Ba2SiS4)の固溶体((Ba,Eu)2SiS4)を作製することによって発光波長を青緑から黄色間で 制御することに成功しました。 固溶体に含まれるバリウムとユーロピウムの比を変化させ、結晶の格子定数を制御することで 連続的な波長制御がなされています。 こういった制御は、エルビウムからの光通信波長を得るための母体吸収材料として チオシリケートを使おうとする際にも重要となってきます。 また、ユーロピウム濃度を減少させることによって濃度消光※を低減し、発光効率を42%まで 高めることに成功しました。

※濃度消光
結晶中においてユーロピウムなどの発光性イオン同士の距離が近すぎると、イオンが吸収した エネルギーは光として放出されず近隣のイオンを励起してしまいます。 これを繰り返すうちに、結晶内のキラーサイトで熱(格子振動)に変わってしまうために 発光効率が低減します。
発光効率の改善のためには濃度消光が起こらないようなイオン間距離になるように、 結晶中のイオン濃度を適切な値に制御する必要があります。